眠り姫と生贄と命の天秤
 ふと、虫の鳴き声とたき火の音ではないものが、聞こえた気がした。気のせいかと思って耳をすます。砂を踏む音が、水の中にいるように膜がかっているがかすかに聞こえる。ひとつではない。かなり多い。膜がかって聞こえるのは、おそらく魔力で音を抑えこんでいるからだ。

 リコにかすかにしか聞こえないということは、『魔女』と同等の魔法を使える者がいるということだ。

 眠気の欠片もなくなって、頭を必死に回転させる。『魔女』と同等の魔法が使える者など、ただの野盗のはずがない。国からの追手だ。完全に囲まれてしまう前に、キトエに知らせて逃げなければ。

 火があっても、あたりを木々に塞がれているので視界が悪い。どこまで囲まれたか分からない。キトエを起こした瞬間に仕掛けられるかもしれない。不自然ではない方法でキトエに知らせないと。普通に声をかければ追手に悟られてしまう。どうすれば。

 浮かんだ方法を一瞬ためらって、そんな猶予はないと覚悟を決める。眠っているキトエの横にあえてゆっくりと手をついて、抱きついた。

「キトエ、キトエ、起きて」

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