眠り姫と生贄と命の天秤
左肩に、短い銀色の矢
眠りが深かったのか、抱きついただけではキトエは起きなくて、リコは小声でキトエの耳元に鋭く話しかける。ただのんきに睦み合っているだけに見えるように。
リコの下でキトエが身じろいで、体を跳ね上げる。
「っえ、リ」
「このまま聞いて。追手が来てる。囲まれそう。わたしと同じくらい魔法を使える人がいる」
キトエの顔は見えないが、伝わったはずだった。
「とにかく街のほうまで走ろう。三、二、一で。攻撃されたらわたしが魔法で防ぐから」
キトエが小さく頷いたのを感じた。
捕縛に、リコは生死を問われているのか分からない。けれどキトエは生贄を逃がした付き人として、確実に殺される。
「いくよ。三。二。一、っ」
合図とともに跳ね起きたキトエに抱え上げられて、リコは声をかんだ。走れるからと言う前に、空気を裂く鋭い音が聞こえて、キトエの肩をつかんで身を乗り出す。木々へ差し出した右手に赤い枝葉の紋様が浮かび、手を横に払う。
「メールオト」
たき火がかき消え、轟音をもって木々の葉が吹き上がる。黒い葉に混じって、何本かの矢が舞うのが見えた。
「メールオト」
リコの下でキトエが身じろいで、体を跳ね上げる。
「っえ、リ」
「このまま聞いて。追手が来てる。囲まれそう。わたしと同じくらい魔法を使える人がいる」
キトエの顔は見えないが、伝わったはずだった。
「とにかく街のほうまで走ろう。三、二、一で。攻撃されたらわたしが魔法で防ぐから」
キトエが小さく頷いたのを感じた。
捕縛に、リコは生死を問われているのか分からない。けれどキトエは生贄を逃がした付き人として、確実に殺される。
「いくよ。三。二。一、っ」
合図とともに跳ね起きたキトエに抱え上げられて、リコは声をかんだ。走れるからと言う前に、空気を裂く鋭い音が聞こえて、キトエの肩をつかんで身を乗り出す。木々へ差し出した右手に赤い枝葉の紋様が浮かび、手を横に払う。
「メールオト」
たき火がかき消え、轟音をもって木々の葉が吹き上がる。黒い葉に混じって、何本かの矢が舞うのが見えた。
「メールオト」