眠り姫と生贄と命の天秤
 逃げ延びようと隣国を目指してから、一か月がたとうとしている。



 ヤギの乳にチーズ、パン、少しの野菜、木の実に塩に水。保存がきかないものは今日食べるぶんとして買った。リコが生贄の城に入る前に屋敷から持ってきたお金と、宝飾品を売ったお金で、まだ食べ物を切りつめなくてすんでいる。元着ていた服もそれなりのものだったので、売ってしまおうかという話になったのだが、宝飾品より足取りが特定されやすいだろうということで、庶民に近い服に着替えるだけにとどめた。一応、リコが歌うたいの旅芸人で、キトエが護衛という設定だ。

 干し肉も買っておきたかったので、リコとキトエは干し肉の屋台の前で立ち止まった。若い男性がやる気がなさそうに奥に座っている。ひとつに束ねられた見事な赤い髪が、肩に垂らされていた。ざっくりと頭に巻かれた白い布から、髪が跳ねて飛び出している。

 リコはのぞきこむように、並べられた干し肉を眺めた。鳥と、羊だろうか。いくつ買おうかと考えていたら、キトエが急にリコをかばうように前に割りこんできた。

「あまりじろじろ見ないでもらいたい」

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