眠り姫と生贄と命の天秤
「生贄は生け捕りにしろって命令なんでね。お前が捕まればそいつを助けてやる。助けたければ捕まれ」

「聞くな、リコ、ふたりとも、殺される」

 キトエが揺れる体で足を踏み出す。リコはつかんだままだったキトエの腕を、支えるように握りしめた。

 キトエが腰に帯びていた剣を抜く。赤い左肩の傷口へ、剣先を突き刺した。キトエが声を喉で潰した音と、リコが悲鳴を飲んだ音が重なる。

 キトエは荒い息をついて、傷口から引き抜いた剣を地へ突き立てた。

「痛みで意識が落ちないように耐えるのか? 騎士見習いのキトエ」

 男性は見世物を見るように、変わらず馬上から笑いを浮かべ続けている。

「知りたくもないと思うが、ジウィードだ。国仕えなもんでな、キトエ、お前のことはよく知ってるよ。何しろ騎士団で騎士よりも有名な見習いだったからな」

 キトエはリコの家に来る前に騎士団にいた。珍しい髪と瞳の色で迫害され、流れ流れてリコの護衛の騎士になった。

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