眠り姫と生贄と命の天秤

民もろとも滅びろ

 本で読んだことがある。魔法が使えるのは珍しくなくても、火を灯す程度の力が普通のこの国で、人を害するほどの魔力を持った女は魔女、男は魔術師と呼ばれる。女は疎まれ、男は重宝される。

 ジウィードは、国仕えの魔術師なのだ。

「街で張ってたんだが、かまをかけすぎた。もう少し緩くやって屋台の食べ物に毒でも入れておけばよかったって後悔してるよ。そしたら怪しまれずにお前たちは買っただろうし、こんな大ごとにしなくてすんだ。国仕えの悲しいさだめでな、生贄を連れ帰らないとお役ごめんなんだよ。おとなしく捕まれ。生贄の魔女」

「お前が生贄になれ」

 キトエがかばうようにリコを背へ押しやる。

「俺は魔女に言ってるんだよ。女ひとり助けられない見習い風情が」

 ジウィードの表情はずっと変わらないのに、笑みに温度がない。キトエにかばわれていても、目が合う。

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