眠り姫と生贄と命の天秤
「理不尽か? かたや生贄の魔女で、かたや国仕えの魔術師。けど本当はたいして変わらない。どいつも魔術師を重用する向きをとりながら、心の中では化け物だと思ってるのさ。だから俺はこの国が好きじゃない。けど地位には満足してる。腹の中で化け物扱いされようと、見かけだけ綺麗に整えた薄っぺらい関係で充分なんだよ。この国がなくなるのは困る。俺は今の地位を失うわけにはいかない。だからお前に同情できない」

 ジウィードの笑みが消える。

「結局俺も、誰も彼も自分が一番可愛い。この国のあまたの民の命をとるのか、自分ひとりの利をとるのか。民も、ここにいる兵も、俺も、全員思ってる。『おとなしく国のために、死ね』」

「黙れ」

 聞いたことがないほどの重く低いキトエの声が、ジウィードの言葉を()った。

「俺は、自分よりも、国よりも、神よりも、リコが大切だ。人の命を食わないと長らえない国なら、民もろとも滅びろ」

 意識を失いそうなのに、キトエの声は限りなく殺意に近い、冷えた憤怒をもっていた。

 ジウィードが吹き出す。

「愛されてんなあ! さあ、どうする? 魔女」

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