眠り姫と生贄と命の天秤
 崩れた馬の上で、ジヴィードがニグカイトに押さえつけられる手を天へ伸ばして唱えた。リコが放った圧力が相殺される。リコは右手を瓶へ向けて掲げる。時間が薄く細長く引き伸ばされる。

 押さえがなくなり地へ転がったジヴィードが小弓を構えた。

「むだだ!」

 銀の矢が放たれる。

 息をするほどの一瞬で、悟る。防げない。掲げた右手を矢へ転換するより、矢のほうが速い、間に合わない。

 地を蹴る音と宙を斬る音が、重なった。

 リコの前に踏みこんだキトエが、下から振り上げた剣で銀の矢を、斬った。

「イグニト!」

 視線を中空の瓶へ戻す。掲げた右手から炎の帯が(くう)を焼いて、熱とともにあたりを照らした。

 多量の白煙が上がる。瓶の中身、禁じられた植物が燃えたのだ。

「キトエ! 息止めて」

 リコはキトエの手から剣を取ってさやに収めると、キトエに体を寄せて服の背をつかむ。右手に、体中の魔力を集める。

「メールオト」

 地へ向けて、持てる力のかぎり、撃った。一瞬のあと、キトエの背と脚を抱き上げる。

 体が浮く。地へ撃った風の反動で、白煙を突き抜けて、飛んだ。

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