眠り姫と生贄と命の天秤
 包帯を軽く結んで、その上から右手と左手を重ねる。体中の魔力を集める。活性化させる。透ける袖の下、腕から手の指にまで赤い枝葉の紋様が浮かび上がる。

「シムリルカ」

 淡い光の粒があふれて、収束していく。「どう?」と尋ねる前に、リコは言葉を失う。

 キトエは必死にまぶたをひらこうと苦しそうで、何も変わらない。

「何も、変わらない?」

 それでも聞くと、キトエは頷いた。絶望が心に入りかける。呪法といえど『眠りに落ちる』という作用なのだから、かけるのは浄化の魔法で間違っていない。全力でかけた。魔女と忌まれるほどの力でも解けない。呪法は銀の矢にこめられていたから、リコも道具を使わないと呪法を解くほどの力が出せないのか? これ以上の力を出す方法が、分からない。

 まただ。魔女と疎まれて、忌まれる力があるのに、肝心なとき何の役にも立たない。ただリコを、まわりを不幸にするだけの力だ。

「リコ、俺を置いて逃げろ」

 息が止まりそうになった。

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