眠り姫と生贄と命の天秤
「街を出たあと、本の話をしたでしょ? 魔女の本とか、魔術書をずっと読んでたのはキトエも知ってるでしょ? 呪法は一定以上の力じゃないと解けない。手から傷口へシムリルカ(浄化)を強くかけても解けなかった。それで……キス、されて、思い出したの。魔力は近ければ近いほど強く作用する。だから一番強く作用させられるのは……体をつないでるときだって」

 キトエの表情を見るのが怖いのと、とんでもないことを言っているという羞恥とで、顔を上げられない。

「キスでかけても、ほとんど効いてないみたいだった。魔術書がうそなのかもしれない。でも今試せる方法で、もうそれしか浮かばない。少しでも可能性があるなら、すがりたいの。何言ってるんだって、嫌かもしれないけど」

 キトエの声が、返ってこない。羞恥と怖さでぐちゃぐちゃの気持ちを押さえつけて、顔を上げる。目が合って、苦しそうに、恥ずかしそうにそらされた。

「それは……もしリコに、その……子どもができたら、俺を置いていったとしても逃げづらくなる」

「置いていかないから! うそでもそういうこと言わないで。一緒じゃなきゃ意味がないって言ったでしょ?」

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