眠り姫と生贄と命の天秤

こういうことがしたくてたまらなかった

 けれど、城から逃げ出してからキトエがほとんどリコに恋人らしいことをしてこなかったのは、そういう配慮があったのだと、こんなところで痛感した。

「こ、子どものことはたしかにそうだけど……キトエを治せる可能性がそれしか浮かばないの。それでも治らないかもしれない。でも、未来の心配より、今が、それしかない」

 むちゃくちゃなことを言っている。

「嫌かもしれないけど、お願い」

 キトエがそらしていた顔を戻す。昏睡に耐えている苦しさと、別の感情が混ざっているようで、よく分からない。

「嫌なわけ、ない」

 背に回されたままだった腕をきつくされて、キトエの胸にぶつかる。

「リコの未来を考えるなら、するべきじゃない。本当は一緒にいたい。けど、最後になるなら」

 また酷いことを言っていると、とがめようとしたとき、耳元で口をひらかれる。

「だって、ずっとリコにこういうことをしたくて、おかしくなりそうだった」

 言葉を理解するより速く、体の芯が痺れて、首筋が熱くなった。

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