眠り姫と生贄と命の天秤

*かみしめると余計痛い

「リコは嫌かもしれないけど、模様、すごく綺麗だ」

 魔力が巡ると、リコの全身には赤い枝葉の紋様が浮かび上がる。今も手の甲から腕、あらわになった腹部、リコ自身見ることはできないが頬にまで淡く名残がある。普通の、火を灯せる程度の魔法が使える者は、紋様は手の甲にうっすらとしか出ない。全身に、血のように赤く現れる紋様は魔女の証だ。

 嫌だった。嫌いだった。恐れられた。気味悪がられた。だから、そんなことを言われたのは初めてだった。

 恐る恐るキトエの体をちゃんと見ると、腕に引きつれた傷痕が、胸にへこんだような傷が、腹に肌の色が変わっているところが、月の明るさしかないのに数えきれないほど、見えた。『騎士団にいたときの嫌がらせ』でついたのか、それ以外でなのかは知らない。

 キトエの耳元で、金の翼のピアスに下がった水色の宝石が光を震わせている。幽玄を捉えたような黄緑の瞳が、虹の欠片の色をもつ。

「キトエのほうが、綺麗だよ」

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