眠り姫と生贄と命の天秤
『わたしの力じゃない』と言いたくて、涙でつまって言えなかった。『魔女』の忌まわしい力。けれど、呪法を破った力。キトエと一緒にいられるための力。

 キトエは落ち着かせるように背を撫でてくれていた。そうして、想いが強くなる。

「やっぱり、死にたく、ない」

 キトエの胸から顔を上げると、張りつめた表情で見つめられる。涙を拭って、息を整える。

「ずっと、わたしなりに考えてた。大勢の人を見殺しにするのか、自分の命を差し出すのか」

 キトエの顔が険を帯びる。キトエは怒ってくれるのだと、緩く微笑んでしまう。

「分かってる。そんな顔しないで。わたしは、恨まれても、死ねって言われても、わたしのせいで国が滅んだとしても、死にたく、ない。この重荷に耐えられないかもしれない。でも、耐えられない罪を背負ったとしても、生きて、いたい。死にたくない」

 普通なら願うこともない、当たり前に叶う、願い。リコは望んではいけない願い。それでも、願う。望む。

「わたしだって、生きたい」

 抑えたはずの涙で、声が震えた。こらえられなくて、涙が頬に伝って、あふれてきそうになる声を押し潰した。

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