眠り姫と生贄と命の天秤
 キトエは自分がつらそうに眉根を寄せていた。空を仰いで、口をあけた。

 それは、月の光を口に含むように。キスが、降ってくる。

「金と銀を」

 離れた唇で、言われた。頭がついていかない。

『金の月と銀の星をあなたにあげる』ということだ。月の光を口に含んで、口付けてからそう言うのだ。本当は満月の夜に行う。月が割れる夜は生贄を捧げる日だから、決して行わない。

 なぜならこれは、結婚の儀式だからだ。

「リコの背負うものを俺も背負う。天に入れなくても、地の底まで一緒に行こう。ふたりで神にそむくなら、割れた月で一緒になるのがちょうどいい」

 キトエは、穏やかだった。

 キトエを同じ罪へ引きずりこんでしまう。けれど、もうとっくに始まってしまっていたのだ。生贄の城を一緒に逃げ出したときから、決まっていたのだ。

「いいの? 本当に?」

「いいも何も、俺はずっとリコの騎士だ。絶対に離さない」

 ふと、キトエの表情に薄く不安がかぶさる。

「俺だと嫌か?」

< 63 / 68 >

この作品をシェア

pagetop