眠り姫と生贄と命の天秤

俺の、奥さん

 こみ上げてきた涙が、頬を流れていってむずがゆくて、乱暴に拭った。満月が真ん中でふたつに割れた月を仰いで、月の光を口に含んで、キトエと唇を合わせた。

「光と虹を」

 しゃくり上げそうになる声で、返した。

『太陽の光と空の虹をあなたにあげる』

 結婚の儀式で返す言葉だ。

 これで結婚は成立した。立会人もいない、誰にも祝福されないけれど。

「嫌なわけないでしょう、ばかっ……キトエが、ずっと騎士だっていうなら、わたしはずっとキトエの主だから。だから、だからっ、ずっと、一緒にいて」

 キトエが泣きそうに、とても温かく、微笑んだ。

「はい。リコ。俺の主。俺の、奥さん」

 いっぱいになった涙で、キトエの瞳の青や橙や緑が大きく混ざり合って、虹が見えた。

(虹をあげるのはわたしじゃなくて、キトエのほうだ)

 言っても不思議な顔をされるだろうから、もう少しあとに取っておこうと思った。抱きしめてくれたキトエの背を、思いきり抱きしめ返した。



 太陽のもと、国境を目前にした街では、桃色や水色の髪の人々と当たり前のようにすれ違う。

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