眠り姫と生贄と命の天秤
 リコはキトエとともに大通りから少し脇道にそれた店へ入った。壁一面の木製の棚には、金銀の食器や宝飾品が並んでいる。外の熱と音から切り離されたような空間で、リコは鮮やかな草花模様の敷物を踏みしめて、男性が座るカウンターへ歩む。

「買い取っていただきたいんですが」

 何重にも折りたたんで真ん中を紐でしばった、薄桃色の髪をカウンターに置いた。頭から垂らした布で見えづらくはなっているが、腰まであったのをまとめて上げていたリコの髪は、(いま)肩につかないほどだった。

 頭に布を巻いたひげの中年男性は慣れた手つきで髪の束を持ち上げる。

「はいよ。長くて綺麗な色だが、ここらじゃ珍しくないからなあ。もっと国境から離れたところで売れば高く売れたのに。あんた方、地元のもんじゃなさそうだし」

 怪しまれたのかと思ったが、男性はリコのほうを見ずに髪を上皿天秤に乗せていたので、ただの雑談のようだ。

「ええと、その……夫が、切るのをなかなか許してくれなくて。旅芸人なので短いほうが楽なんですが」

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