Will you marry me? 〜エリート建築士は策士な旦那様でした〜
「先生、お願いできますか?」
そんなことを思ってしまった自分を戒めていると、父の声に我に返る。
VIPをもてなすために建てられた、客室とは別の邸宅。
きっと、一枚板の見事なテーブルを挟んで父は相手と向かい合っているはずだ。
「どうして私を?」
廊下で待機している私には姿は見えない。彼が今どんな反応をし、何を考えているかはもちろん知る由もないが、その声は冷たく聞こえた。
父の対話の相手は建築家の向井謙太郎氏。
私はその名前ぐらいしか知らなかったが、今の時代、彼ほどの人ならば、その気になればほとんどの情報は手に入ってしまう。