神様、僕に妹を下さい

Act.110 サイド皇紀(こうき)

いつからこんなに涙腺が弱くなったのだろう

 晶の事を考えるだけで、苦しくて涙が自然に出てくる

 「皇紀」
 五十嵐は腕をのばし、オレの頭をやわらかく抱き込むと、自分の胸に引き寄せた

 奴の鼓動が静かに脈打っている

 「本来、俺の胸は女の子専用なんだけど、今日は特別に貸してあげる。だからそんな顔見せるなよな」

 五十嵐の声が優しく頭の中に響いた

 涙が枯れかけた頃には、辺りも暗くなり、街には赤や黄色のネオンが灯っていた

 「五十嵐、やっぱりお前、男も好きなんだろ」
 スッキリした気分で顔をあげ、悪戯っぽくからかってみた

 「あのね、たった今、人の胸で泣いてた奴がよくそんな事言えるな。俺はノーマルなの」
 ブツブつと呟きながらタバコの火をつける五十嵐を横目に、柵に足をかけて身を乗り出した

 「それじゃぁ、実の妹に恋をしているオレの方が普通じゃないな」
 いたって、自然に言えた

 「え?」
 五十嵐が驚きの表情を見せる

 「妹・・って、皇紀に妹がいたの!?」

 「あのーもしもし、驚く箇所が違うだろ」

 「そうだっけ?」

 まったく、他人に話す事にどれだけ抵抗があったか知れないのに、こいつは・・
 
 「オレの事、批難しないのか?」

 「してほしいの?」

 「・・・」

 正直わからない。批判された方が楽なのかどうかも

 「あーあ、前から皇紀の好みってどんな子だろうと思っていたけど、分からない訳だね。来るもの拒わずだったのは、妹ちゃんより惹かれる子を探していたんだから・・」

 「結局、見つけることも抗うことも出来なかった。情けないよな」

 「何言ってんの、心が捕らえた感情に抗うなんて出来るわけないじゃん。皇紀にとって、好きになったのが、妹だったって事だろ。俺は、お前が苦悩してきた姿を見てるし、中傷なんて出来るはずがない」
 

 
 「・・バカヤロ・・お前、大好き」


 五十嵐に目線を合わせず、頬杖をつく
 言って、自分の顔がほころんでいるのがわかる
 こいつと親友でよかった・・と 

 「もし?言ってる事が滅茶苦茶なんだけどわかってる?」

 「いちいち、うるさいな。思った事を言ったまでだ」

 「でも一番好きなのは、妹ちゃんなんだろ」

 「順番なんて関係ない。あいつはオレのすべて」
 
 だからこそ、オレはあいつから離れなければならない

 「五十嵐、本題に入っていいか?」

 「ん?」

 「オレ、近日中にあの家を出ようと考えている」
 
 パン、パンと季節を先取りして、遠くからロケット花火の音が響いた
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