神様、僕に妹を下さい

Act.137 サイド皇紀(こうき)

 「はぁ」
 活き活きと走っていく桜場の後姿を見て、妙な気だるさを感じ、ため息をついた

 「何、男の背中を見て思いつめた顔してんの?」
 鞄を小脇に抱え、ストローでジュースを飲みながら、五十嵐がオレの元に歩いてきた

 「もしかして、今のが『こいも』ちゃん?」
 オレの肩に肘をかけ、悪戯に笑っている

 「?『こいも』って何だよ」

 「『皇紀の妹』を短縮させてみた。かわいいだろ。それとも『あきら』って呼んでいいわけ?」

 『こいも』というのはジャガイモみたいで嫌だが、こいつに晶を呼び捨てされるのはもっと嫌だ

 そのオレの心境を五十嵐は解かっていて、聞いてきている
 自然にぶすっとした表情になってしまう

 「皇紀って、普段は感情を出さないのに、こいもちゃんの事だと解かり易いのな。そして、今日の沈んでいる原因もこいもちゃん」

 「・・・」
 こいつ・・人の事を見ていない様で見ているし、勘も鋭い

 「何かあった?ほら俺って皇紀の家出の片棒を担ぐ訳だし、色々と状況を把握しておかないと」

 家出じゃなく、家を出る・・だ。ほとんど変わらないが五十嵐に言わせると、どうも軽く聞こえる

 それに、俺の事を心配している様で、何だこの満弁の笑顔
 こいつは昔から、他人の不幸を喜ぶ傾向があるから性質が悪い

 「お前、心配と言うより、楽しんでるだろ」

 こいつに晶の事を話したのは間違いだったか?

 「酷い。お兄ちゃん。なーんて事、こいもちゃんに言われてたりして」

 こいつ・・
人の気持ちも知らず、好き放題いいやがって

 「晶は普段オレの事『お兄ちゃん』とは呼ばねーよ」

 よっぽと頭に血が上って、自分の言葉に整理がつかないときだけ『皇兄』から『お兄ちゃん』になるけどな

 それに、今更『酷い』とか言われたくらいで、傷つくか

 無理やり、晶の弱点の耳を攻めた時も『大嫌い』とまで言われたんだ。まぁ、多少は堪えたが、オレが悪いとわかっているから納得できた

 ・・だが
 
 「今回、マジでお手上げ状態」

 今でも残る晶の声
 
 思い浮かぶ涙  

作り笑顔   

身体に現れた赤い蕁麻疹 

 晶はひたすらオレに謝るばかりで、理由を訊いても答えない 


 「話してみろって」
 五十嵐から笑顔が消え、真剣な表情に変わる

 オレは、記憶に残る昨日の晶のすべてを話はじめた
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