神様、僕に妹を下さい

Act.152 サイド皇紀(こうき)

「返せよ!」

 時計を離そうとしない晶の腕に、オレの指先がだんたん食い込んでいく

 「痛っ」

 痛い・・だと?
 苦痛に歪む晶の顔に不安が込み上げてくる

 「頼む。返してくれ」
 時計さえ放してくれれば、こんな事をしなくても済む
 こんな顔を見たくないから、オレはお前から離れようと決めたんだ

 「痛い・・やめ・・」

 晶の痛がる表情に耐え切れず、オレは晶の腕を放り投げた

 ガシャン

 気付いた時は、時計は晶の手を離れ、ガラス戸を突き破り、カンッ・カンッと瓦にバウンドし落ちて行った

 落ちた方向は、裏庭の方角!

 転げるように階段を下りると、履くものも問わず裏庭に駆け寄った

 時計・・時計は・・

 「あった」
 時計はオオバコの葉の上に、ちょこんと乗っていた

 まるで、おとぎ話のおやゆび姫みたいだ

 両手で掬う様に拾い上げ、違う角度で眺める

 少し、傷ついたが・・気になる程ではない

 空を見上げ、秒針を耳に当てる

 カチッ・カチッ・カチッ

 はぁ

 「よかった。動いている」

 晶の大事な物だ。よかった本当に

 目を閉じ、時計の文字盤に口付けをする

 今度は、もう離さない。時計を腕にはめると、ふと視線を感じた

 1mほど先に、晶が胸を押さえて、こっちを見ていた

 夢・・か、幻?
 時計を取り戻したせいか、だんだんこの晶を、冷静に凝視することが出来た

 背丈も、さらさらの髪も、オレよりひと回り小さい掌も、すべて晶にそっくり

 いや・・晶なのだ

 「お前・・なんでここに?」
 声をかけたが、晶はその場に固まったまま、肩から激しく呼吸を繰り返していた
 
 「あき・・ら?」

 うつむいたまま、オレの顔を見上げないのは、昨日のままだ

 だが、この呼吸の仕方は尋常じゃない

 大丈夫なのか? 晶の肩に、ゆっくり手をかける

 「いっ嫌!!」

 途端、晶は声を上げ、オレの手を払い、身体を両手で抱え込むと地面に座り込んだ

 
 また・・か

 オレに触れられると、異常な過剰反応

 そして

 白く透き通るような肌の上に、蕁麻疹という深紅の模様が浮かび上がる

 これもまた、昨日と同じ・・
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