神様、僕に妹を下さい

Act.186 サイド皇紀(こうき)

まぁ、五十嵐が別館に住もうが、本館に住もうがそあいつの自由だから構わないが、オレまで本館にしなくてもいいだろう

 あそこは、五十嵐の両親と・・お手伝いが数十人いたはず
 何回かお邪魔した事があるが、あの雰囲気にはどうもなじめない

 あいつが本館から出たのも、それも一理あるのかもな

 「こんばんわ」
 
 美容院の前を通り過ぎようとした時、エプロンをつけた女の人に挨拶された

 「どうも」
 軽く会釈して、通り過ぎようとすると『晶ちゃんのお兄さんよね?』と声をかけられた

 この美容院は晶が初めて来店した時、オレも一緒に来た店だった

 「晶ちゃん、今回は思い切ったわね。ビックリしたでしょう」

 「?」
 いったい、何の事だろう?

 「晶、お邪魔したんですか?」
 ビックリしたって、どういう意味なんだ?

 「夕方、男の子連れで来てくれたわよ。彼氏?と聞いたら『親友』ですって」

 
『親友』と聞いて、直ぐに桜場が思い浮かんだ
晶は、桜場を連れて、いったい美容院に何をしに来たのか?

 「まだ、晶に会ってないのであいつがどんな風にしたのか知らなくて。家に帰って見てみます」

 「じゃぁ、楽しみね。可愛くなっているわ」

 「・・・」
 
 クルリ、方向転換し家に向かって歩き出す
 
 今朝あんな事があったばかりで、放課後に美容院に行くなんて、まさかまさかとは思うが、あいつ髪を黒く・・

 「はぁ」
 家の前に着いて、一呼吸置く

 しばらくは、帰らないと母さんには電話したせいだろう。玄関は鍵がかかっており、合鍵でそっとドアを開けた

 リビングまで音を立てずに入ると、母さんがアイロンをかけているところだった

 晶の姿はない
 
 「あら皇ちゃん、帰ってきたの。良かったわぁ。2階の物置きから掛け時計を探してきてくれない?晶ちゃんにお願いしたんだけど、あの子、物を探すの下手でしょう」

 晶が物を探すのが下手なのは、母さん譲り
 自分が、探すのが苦手なものだから晶に押し付けたのだろう

 「わかった。掛け時計だな」

 「お願いね。皇ちゃん。あと、晶ちゃんなんだけど。ふふふ。会ってみて」

 言われなくても、そうする
 もし、髪を黒く染めていたら、それはオレのせいだ
 
 オレのつまらない嫉妬から、あいつをそこまで追い込んでしまったのだ
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