神様、僕に妹を下さい

Act.190 サイド晶(あきら)

 「簡単なものでいいなら、作りますけど・・」
 先輩があまりにも真剣で、つい答えてしまった

 「ホントに♪マジ、助かる」
 先輩の顔が見る間にパァッと輝いて見えた

 どう見ても、死にそうには見えないけど

 季節の変わり目に、軽い奴が出てくるって桜場も言っていたし、私、からかわれてるのかなぁ

 でも、私なんかに頭を下げた表情は嘘ではないと思う

 「何かリクエストとかありますか?」

 「君の好きな物でいいよ」

 私の好きな物?私が食べるわけでもないのに、おかしな事言う人

 「先輩が食べるんですよね?」
 確認のために聞いてみた

 「え?あ・・俺?!そう、俺、お腹が空いて死んじゃいそうなの。そうだな、簡単に食べれるもので、おにぎりがいいな」

 家庭料理が食べたそうに言っていたわりに、おにぎりとは。やはり、桜場の言うとおり近づかない方がいいかもしれない

 けど、一度引き受けてしまった手前、今更断れないし

 「わかりました。おにぎりだけじゃ寂しいので、豚汁も一緒に作りますね」
 腕まくりをし、左手の腕時計を外して、テーブルに置く

 まず、お米から洗わないと
 両手を石鹸で洗っていると、先輩は私の腕時計をつまみ上げた

 「何か?」
 
 「男物なんだと思って。彼氏とペアなわけ?」

 「そうだと、いいんですけど残念でした。兄と色違いなんです」

 お米を水で洗い、ザルにあけ、炊飯ジャーへ。炊き上がりは48分後

 次は、豚汁のごぼうを・・

 「何ですか?」
 どうも、見られていると照れると言うか、作業が進まない

 「お兄さんと仲いいんだ」

 「仲・・ですか」
 ほぅ・・とため息をつく

 「もともと、良かったわけでもなかったけど、最近は嫌われちゃったみたいで、顔も見たくないって言われました」

 どうして、見ず知らずの人にこんな事を話しているんだろう私

 「そんな事ない。あいつは、痛いくらいに君を・・」

 「え?」

 「いや、何でもない。時計、大事にな。お兄さんもきっと大事にしていると思う」

 なぜかこの人の言葉は、本当に聞こえて、この人の声には魅力がある

 「おにぎり、出来た頃に代理人が取りにくるから、その人に渡してくれる?」

 「え・・はい?」
 先輩が食べるんじゃなかったんだ・・じゃぁ、誰が?
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