神様、僕に妹を下さい

Act.212 サイド皇紀(こうき)

沢村にコピーを頼んだ後、どっと疲れが出て、椅子になだれ込むように座った
 
 肘を付き、箸でポテトサラダをつまんでほおばる

 「・・うまい。オレ、味覚がおかしくなったのかも」
 ポテトサラダも晶の作った味に思えてならない

 「半分、病気だな」
 ため息混じりに呟いて、机にうつ伏せになった

 「あいつ・・今頃、何やってんだろう・・?」
 気が緩むと晶の事を考えてしまう

 晶に最後に会ったのは・・あいつが髪を切った日か

 「ごめん・・な。髪切らせてしまって、ごめ・・」

 スーと意識が遠退き、オレは深い眠りについた



 
 「もも、泣きながら怒っとった」

 オレの意識を呼び覚ましたのは、会長の沈んだ声と、口の中に広がる甘酸っぱい飴だった

 「あ・・め?」
 口の中のみかんの種程の大きさの塊は、確かに飴だった
 
 いつの間に飴なんて舐めたのだろう・・?
 それに、なんだ・・この妙に唇の気だるい感じというか、微熱をおびた感覚

 「皇紀先輩、起きられました?はい、コーヒー」
 机の上にコーヒーカップを置く沢村双葉の腕を掴んだ

 「オレ・・あんたに・・キスした・・よな?」
 頭は覚えてなくても、感覚がキスしたと訴えている

 「し・してません!!」
 彼女は大きく首を横に振った
 
 「嘘つくなよ。だって、現にその時の飴が、こうしてオレの口の中に・・」

 「私がここに来た時は、皇紀先輩は眠っていて、オニイチャンは落ち込んでるし。でも、うれしい。私とキスする夢見てくれてたんですよね」

 ゆ・・め?
 本当に夢なのか?
 それにしては、妙に生々しい感触と、口の中に広がる甘酸っぱい・・ももの味

 「皇紀先輩も何か言ってあげて下さいよ。どうやら彼女に私は『もも』っていう名前じゃない!て泣かれて言われたらしくって」

 会長はまだ、『もも』に本名を聞いていなかったのか

 「ちゃんと、謝って本名聞いたんですか?」

 「聞く前に、走り去られてしもた。どーしよー」
 半べその会長がオレに抱きついてきた

 「どうしようと言われても・・」
 会長の周りから、甘酸っぱい匂いがする

 「?会長、何か飴、舐めてます?」
 恐る恐る、聞いてみる
 
 「あぁ、『すもも』味の飴やけど、そんな事は今はええやろ」
 
 すもも味って、まさか、オレがキスした相手って・・?
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