神様、僕に妹を下さい

Act.222 サイド皇紀(こうき)

 「なんでこーちゃん浴衣にせいへんかったんや」

 結局、浴衣は着ないで、普段着のまま出てきた

 「似合おうと思うのに」

 「オレの事はいいですから、あまりはしゃがないで下さい」

 浴衣姿で、スキップする姿は注目の的

 そんなに彼女に会えるのがうれしいのか
 こっちは、どんな顔をして晶に会えばいいのか悩んでいると言うのに

 「どーした?こーちゃん」

 「会長はいつも楽しそうで羨ましいと思いまして」
 
 「こーちゃんは固すぎてあかん。最近、心から笑った事あるか?」

 「さぁ」
 ある訳ない。最近どころか、ここ何年本気で楽しいと思ったことはない
 
 晶と一緒にいても、また兄に戻らなければならないと考えると、笑えるわけがない


 「ももとおると楽しいで、なんやあの子とおると、ほんわかした気分になるんや」

 「はい、はい。本当に、ももと仲直りしたのを見たら帰りますからね」

 「おう、たのむわ。双葉の奴うまくやっといてくれるとええんやけど」
 
 待ち合わせの場所になる橋の真ん中に着くと、オレは流れる川を覗き込み、会長はキョロキョロとももが来るのを待っていた

 陽はもうほとんど沈み、祭りのある神社の方から太鼓の囃子が聞こえてくる

 昔、小学校の帰りにこの橋の上から、給食で残したパンを千切って投げた。魚が面白いくらいパンに喰らいついてくるから、パンの日は決まってここに晶と来ていた

 その川も整備されて、沢山いた魚もいなくなった

 あの魚達はどこに行ったのだろう・・?

 
 
 「うそ、魚なんていないじゃないの」

 「昔は100匹以上いたんだよ。何処いっちゃたんだろう?」

 橋の端からそんな声が聞こえてきた
 オレと同じ事を考えている奴もいるんだな

 「おー双葉こっちや」

 会長が両手を挙げ手を振った

 「オニイチャン!」

 「なんや、お前その浴衣どうしたん?」

 「えへっ。似合う?ももに借りちゃった。皇紀先輩も見てくださいよ」

 ゆっくり、川から目線を外し、沢村双葉の方を振り向いた

 「!!」
 思わず息を飲む

 「お前、その浴衣・・」

 「似合います?」

 それは、黒地の紫陽花柄の浴衣
 
 「どうして、あんたがその浴衣を」

 なぜ、晶が持っている浴衣を双葉が着ているんだ
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