神様、僕に妹を下さい

Act.235 サイド皇紀(こうき)

「待て!」
 オレから逃げようとする晶に、咄嗟にいつもの命令口調になり晶の腕を強引に掴んでいた

 「な・・に?」
 晶の声は、さっきまで飴を選んでいた時とは別物で、明らかにオレに怯えている

 そうだよな・・オレは晶に酷い事をしたんだ。許してくれなんて言えないよな

 けれど晶は、ゆっくりとオレの方を向いて、黒く大きな瞳にオレの姿を映してくれていた

 何から聞けばいい?
 どう聞いたら、本当のことを話してくれる?

 晶との絡まった糸をどう解けばいい?

 自分の呼吸を整えながら、静かに目を閉じる

 「お前に・・聞きたい事が山ほどある・・何から聞けばいいのか」

 自分に言い聞かせながら、ゆっくり目を開けても、晶の瞳の中のオレは健在だった

 「あの日、夕飯の約束をしていた日、お前の様子がおかしかったのは、オレのせいだったんだよな」

 オレと知らない女とのキスシーンを・・それ以外にも、双葉とのやり取りを見たんだよなきっと

  「ごめん・・なさい」
 ビクンを身体を震わせ、晶はオレから視線を落とす

 「なんで、謝るんだ?悪いのはあんな画像を撮られたオレのせいだろ」

 お前が謝る事も、背負う必要もないのに・・

  「あんなモノの為に、お前が頭を下げて、キ・・スを」

  あの画像のキスだって、別の女をお前に見立ててしたものなんだ・・・・
 
  「私、画像を消してもらう条件のキスが出来なくて、画像もあのままなの。もう一度、消してもらう様お願いしてみる。だから、皇兄のプライベートを守れなくてごめんね」

なのに晶は自分が悪いと謝ってくる

 「オレは、あんな画像の為にお前を傷つけてしまったんだな」

 「あんな画像じゃないよ。私が反対の立場だったら嫌だもの。好きな人とのキスを、知らない所で誰かが見ているなて。そんなのきっと耐えられない」
 
  あんな好きでもない女とのキスシーンの画像を、オレの為に守ろうとしてくれたなんて

お前の『初めて』は、こんな事の為に、犠牲にするものじゃない

  「晶・・」

 お前は・・・ちゃんと自分で選んだ好きな人と・・


 「もも~」
 遠くで会長が晶を呼ぶ声がオレ達を遮った

 「呼ばれてるみたい。行かなくちゃ」
 その声に反応した晶は、オレの手を解き、会長へと歩き出した

もう、晶を引き留める時間はない
次の質問だけは、どうしても聞いておかなければ

 「晶、最後に一つだけ、お前はあの画像の為に会長と付き合っているのか?」

 「違うよ」
 晶はオレの方に振り向くことなく、大きく首を横に振った

 「会長さん優しいし、私の事すごく大事にしてくれるから」


 もし・・もしも
 晶がオレの為に付き合う事になっているのなら、オレから会長に話をつけなければならないと思っていた


 けれど晶は、即答で答えた
 
 晶が、会長の事を本気で考えているなら、オレはあいつの事を応援してやらなければならない

 
 会長の元にかけて行く晶の後ろ姿を見ながら、そう決意した

 
 会長と双葉と晶の3人の所に、ゆっくり歩いていく

 双葉が抜け出して、オレの方に駆けて来た

 「皇紀先輩、ももと一緒だったの、ズルイです。私も2人っきりになりたい。このまま何処かに行きましょう」
 
 「悪いな、双葉。ちょっと会長と話があるんだ。ももと缶コーヒーでも買ってきてくれるか?」

 双葉の絡まる腕をヒラリとかわす

 「え~。ももとですかぁ」

 「会長との話が終わったら、お前の行きたいとこ、付きやってやるから」

 ポンポンと双葉の頭を撫でて、約束するとオレは会長と晶の元へと歩き出した

 それにしても、あの2人、座り込んで何をしているんだろう?

 会長の大きい図体が、見事に小さく縮こまり、顔をウチワで隠している

 そのウチワを晶が取り上げた

 「私、ずっと黙っていた事があってー」

 「!」
 晶はオレとの事を、会長に話そうとしている

 オレはポケットから財布を取り出し、晶の頭の上に乗せた

 晶は何事かと、財布を手に取ってオレの方を見上げた

 「晶、これで双葉と一緒に缶コーヒー買ってきてくれないか」
 双葉を指差し、晶を立たせる

 「でも・・」

 「頼むよ。オレ、無糖ブラックでヨロシク」

 「はい」
 こーいう押しに弱いとこ、やっぱり変わらないな
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