神様、僕に妹を下さい

Act.263 サイド晶(あきら)

 「さすがや、こーちゃん。見てないようで、見とるんやな。双葉が足痛めとるの。俺は全然気付かんかったわ」
 
 双葉さんを背負い、石段を降りていった皇兄

 昔からそう

 皇兄は誰よりも早く、人の痛みに気付いてくれる人

 いつも、いつも私の痛みに一番に気付いてくれていた

 一番のはずだった・・

 「晶?お参り行かへんの?一緒に行こか?」

 「いえ、1人でお参りしてきます」
 神殿に向かって歩き出す

 歩くたびに、左足が痛みで疼く

 無理する私に、誰よりも早く気付いてくれるのは皇兄だった
 
 私・・左足の事・・皇兄に気付かれたくなかった
 でも、心のどこかで本当は気付いてほしかったの

 昔のように、あの頃のように、皇兄の背中に背負ってもらいたくて

 「ケホ、ケホ」
 乾いた咳も、頻繁に出るようになってきた

 皇兄・・皇兄・・



 神殿の前に着くと、今よりも背が低い、それでも面影は変わらない皇兄が私の前に現れた

 私は昔、この皇兄に、会っている

 『晶、辛い時は辛いって言えよ。お前はどうも気を使って言わない所があるだろ。いつも、オレが気付いてやる訳にはいかないからな』 

 そう言って、皇兄は私の頭を撫でる

 『でも、お前の側にいる限りは、見守ってやるよ』

 当時12歳の皇兄の幻は、風となって私の前から消えた



 「辛い時は辛い・・」

 言わないと、辛い時は辛いと・・私から言わないと、皇兄はもう気付いてくれない

 「皇兄・・私、左足が痛いの・・」

 ズキンと疼く左足を前に出した

 「皇兄・・私、喉がずっと痛いの・・」

 喉を右手で押さえる

 「こぅ・・にぃ・・わたし・・心が・・痛いです」
 
 左手で心臓を掴み、神殿の前でしゃがみ込んだ

 
 神様・・神様・・神様

 私、皇兄が好きです

 たとえそれが、あなたの意思に背く事だとしても
 
 兄が好きです

 許されない恋だと判っている・・。でも

 「もう、嘘はつきたくない」

 実の兄を好きになったのが罪なら、自分の心に嘘をつくのも罪

 どっちを選んでも、罪を背負う事になるのなら、私は自分の心に嘘をつきたくない


 「でも、皇兄に罪はありません。罰を下すのなら私だけにして下さい」

 深々と、お辞儀をし私は会長さんの元へと歩き出す
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