神様、僕に妹を下さい

Act.266 サイド皇紀(こうき)

 「・・先輩、皇紀先輩」

 肩を叩かれ、オレは足を止めた

 「つらいのか?」

 背中に背負っている双葉に声をかける

 「いえ・・」
 
 「何だ?はっきり言えよ。お前らしくない」
 
 サワサワと生暖かい風を肌に感じる
 嫌な風だ。こういう風は雨雲を呼ぶことが多い

 雨が降らなければいいのだが・・

 「行くぞ」
 再び階段を降りようと、歩き出す

 「先輩・・ごめんなさい」
 オレの首に回していた双葉の腕に力が入った

 否に素直だな

 下駄の鼻緒で足を挫いたくらいで、謝ることではないだろう
 履き慣れない履物を履けば、傷つくに決まっている

 「別に、気にするな。ハシャギすぎただけだろ」
 
 「違います。この事ではなくて・・先輩、以前にうちの学校の生徒を背負って帰ったことがあるでしょう」

 「あぁ」
 音楽室で眠ってしまった晶を、家まで背負って帰ったことがあった

 その事でなぜ双葉が謝るのだろう?

 「次の日、先輩が誰を背負って帰ったのか学校で噂になって、私それ自分だって嘘ついたの。先輩と付き合ってるって・・・本当にごめんなさい」

 双葉の声が涙声に変わる

 「なんだ、そんな事か。もう過ぎた事だ」

 「あの時、背負ってたの『もも』いや・・晶さんなんですよね?」

 「フッ・・言い難いなら、『もも』で構わない」
 双葉の質問にあえて答えないでいると、双葉は答えも待たずに話続けた

 「だから、『もも』は私に『嘘つき』って殴りかかってきたの。背負われた本人しか、私が嘘をついているって知らないものね」

 神社の境内の入口の休憩所につき、双葉を椅子に下ろす

 双葉の下駄を脱がせ、途中で買ったペットボトルの水を傷口にかけた

 「・・っ!」

 「痛いか?菌が入っていないといいんだが・・」

 「大丈夫です」

 「簡単に傷口を固定するから、家に帰ったらちゃんと消毒しろよ」

 何か、傷口を縛るもの・・を
 ポケットを探り、ハンカチを取り出す

 「!?」
 
 ない
 ポケットに入れておいた、ガラス細工がなくなっている

 全ポケットを探ったが、見当たらなかった

 「どうかしたんですか?」

 「いや・・ちょっとな。さっき買ったガラス細工落としたみたいだ」

 言いながら、ビリビリとハンカチを引き裂いた
< 266 / 350 >

この作品をシェア

pagetop