神様、僕に妹を下さい

Act.268 サイド皇紀(こうき)

雨はすぐにオレの所にまでやって来た

 パラパラとビニール傘に雨が当たり、境内の空気は土煙と、コンクリートの生臭い匂いが立ち込めた

 探し物は見つからない

 雨のせいで、境内に人はいなくなり探しやすくなった
 反対を言えば、雨で逃げて行く見物客のせいで、踏まれて何処かに行ってしまったほうが確実だな

 悪いな。双葉
 見つけ出すこと出来なかった

 この先を行けば、神社に続く石段への入口へと着いてしまう

 ここまで探してないのなら、あとは石段を降りる時に落としたに違いない

 オレはもう、神殿に行くつもりはないから、ここまでだ

 方向転換し、来た道を引き返そうとした時、雨の音に混じって声が聞こえた

 「?」
 急いで耳を澄ますが、ビニール傘に当たる雨の音しかしなかった

 気のせいか・・?

 こんな雨の中、人がいるわけながい

 『・・るは、・・が・・・れる・に』

 また・・だ。途切れ途切れの声がする
 
 ビニール傘が邪魔だ。傘の音で余計に聞こえない
 オレは、ビニール傘を閉じて、聴覚に神経を集中させた

 『・・じゃくしは、・・とかえるに孵れま・・うに』
 かすれた声、所々鼻をすする音

 何処からだ・・?

 服に雨が浸透していくのを感じながら、声のする方へと歩き出す

 声が・・近い

 『かえるは、私がちゃんと帰れる様に』
 『おたまじゃくしは、ちゃんとかえるに孵れますように』

 その声は、大ケヤキの木の下から聞こえてくる

 まさ・・か
 まさか!オレの歩幅が大きくなる


 「早く、帰れるといいね。私も、あなたも」


 大ケヤキの根元には、おたまじゃくしのガラス細工を手の平に乗せ、それを人指し指で小突いている晶の姿があった

 「あき・・ら!?」
 何で、どうしてこんな所にいるんだ?

 「あ・・皇兄」
 晶は、オレに気付くと手の平を閉じて、ゆっくりと立ち上がった

 ポタポタと髪先から、ワンピースの裾の先から雫が滴っている

 「お前、こんな所で何やってんだ!!こんなに雨に濡れて、風邪でもひいたらどうする!!」

 雫が滴っていると言うのに拭く事もしない晶に、思わず怒鳴っていた

 「皇兄・・これ、かえるとおたまじゃくし、落としたでしょう?」

 晶は、ゆっくりとオレの前に手を差し出した
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