神様、僕に妹を下さい

Act.286 サイド皇紀(こうき)

 「・・で、お前は何を思い出したんだ?」

 「えへへへ」

 「言えよ。言わないと・・」
 人差し指で晶の背中をなぞる

 「ひやぁっ!」
 晶はブルッと身震いし、背中を振るわせた

 「こうにぃっ!」
 ぽふぽふと、晶はオレの肩を叩く

 「言う気になったか?」

 「う・・ん。ロミオ役の皇兄、カッコよかったよなぁって」

 は?それだけじゃぁ、話の落ちがないだろうが・・晶らしいな

 「皇兄ってさ、背が高くて、顔立ちも綺麗で、本当にカッコいいよね」

 「お前なぁ、そんな事あまり、人前で言うなよな」

 傍から見たら、身内びいきだと思われる
 この性格は、母さんから引き継いだな

 「どうして?だって、クラスメイトのほとんどが皇兄に憧れてるんだよ。みんな皇兄の事好きって言ってる」

 「・・・」

 好き・・か

 オレは、何百、何千の女の『好き』と言う言葉より
 たったひとり・・・お前からの『好き』がほしかった

 「皇・・皇兄は・・好きな人・・いるの?」

 「なんで?また、誰かから聞いて来いって言われたのか?」

 中学の頃、オレが晶の兄だと知った女達が晶を通じてそんな質問をして来ていたのを思い出す

 「うううん。五十嵐先輩が言ってたの。皇兄には、片思いの人がいるって」

 あいつ・・いつの間に晶にそんな事を吹き込んだんだ
 
 「あいつの言う事は、真に受けるな。人の心をかき乱して、喜ぶ奴なんだ。オレもどれだけあいつに・・」

 なんだ・・?
 晶に貸したオレの肩の上に生暖かい雫が落ちた

 晶が肩を震わせて泣いている

 「どうした晶?何処か痛いのか?」

 「うううん。片思いって辛いと思って」
 
 晶・・?

 「皇兄・・私ね。つい最近まで、自分には白馬の王子様が現れるって思ってたの。その人が運命の人なんだって・・」

 お前にとって、それは会長だったんだろう?
 オレはあえて言葉にしなかった

 「でも・・現実は違ってた。現実はそんなに甘くなくて・・人を好きになるのって、こんなに辛いんだね」 

 晶の悲痛な声がオレの耳に響く

 「晶・・会長はお前の事をちゃんとわかっている人だ。だから不安になる事はない」 
 晶の背中を優しく叩く
 
 「雨・・止んだな」

 気がつくと雨が止み、月の光が窓から差し込んでいた
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