神様、僕に妹を下さい

Act.295 サイド皇紀(こうき)

「私、すごく幸せだった。夢にまで見た好きな人とのキスだもの」

 ・・・!
 オレの左頬に、晶の熱い手が触れた

 「・・でも、その人が口にしたのは、別の人の名前。私のとのキスなのに、その人は別の人とキスしたと思ってるの」

 晶の声が、涙声が入り混じり、だんだんかすれて行く

 そして右頬に、同じ熱い手が当てられた

 晶の気配をすごく近く感じる

 「私は、今度その人が目を開けたとき、『あきら』って呼んでもらいたい」

 悲痛な晶の叫び

 そして、次の瞬間・・晶の吐息がオレの鼻にかかり、オレの上唇に柔らかい感触が降り立った

 「!あき・・!」
 
 オレは急いで目を開け、目の前に起こっている現実に息が止まる

 晶が目を閉じ、オレの上唇を、小さな唇で何度もついばんでいる姿

 ついばみながら、喉の奥から、晶の声が聞こえてくる

 「好き・・・・好き」・・とかすれた声で何度も・・

 晶の唇は、オレの下唇へと添えられて行った

 夢にまで描いていた、晶とのキスだった

 でも、オレはこの唇の感触を知っている
 初めて・・のはずなのに・・

 何より、晶のキスの仕方は・・どうしてオレと同じなんだ・・

 オレ両目から、涙が溢れ出し、一筋の線となって晶の手に落ちて行った

 晶の瞳がゆっくりと開き、震える手でオレの頬の涙を拭った

 「こぅ・・に・・ぃ・・笑・・っ」

 晶は目を細め、オレに笑いかけると、オレの前で崩れ落ちた

 「あ・・あき・・あきら!晶!!」

 目の前に横たわった晶の身体を抱き上げ、頬を叩きながら何回も名前を呼ぶが、晶の反応はない

 晶の身体が、火の玉ように熱く、虫の息の状態だった

 「うそ・・だろ・・頼むから、目を開けろよ。晶」

 さっきから止まる事を知らないオレの涙が、晶の顔に落ちて行った

 今は、泣いている時ではない

 晶を早く病院へ

 「救急車を・・」
 
 携帯電話に手をかける

 救急車より、ここからなら五十嵐の病院の方が近い

 119番を押す手を止め、短縮の五十嵐携帯番号を押す

 TRRR

 出ろよ、出てくれよ。五十嵐

 ワンコールの時間がとても長く感じた

 カチャリと五十嵐が出た瞬間、オレは叫んでいた

 「五十嵐・・頼む、晶を・・晶を助けてくれ」
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