神様、僕に妹を下さい

Act.311 サイド晶(あきら)

私は五十嵐先輩の後ろ姿を追いながら、迷子にならない様に周りを見渡し、頭の中に叩き込んで行った

 「大きな家ですね」
 私の怪しい行動を、先輩に悟られないように話しかけた

 「そぉ?デカイだけで、つまらない家だよ」

 「私のいた部屋は、どなたかの部屋なんですか?」

 「え・・あぁ、今はいないんだけど、俺の姉さんのね。着いた、ここがバスルーム。着替えは後で、持ってこさせるから」

 「はい。ありがとうございます」

 バスルームの入口で五十嵐先輩と別れ、先輩の姿が見えなくなるまで見送る

 「五十嵐先輩、ごめんなさい」

 バスルームに入り、シャワーの栓をひねった
 シャァァァァという音と共に、白い湯気が立ち上る

 この音と湯気で、どこまで私がここにいると誤魔化せるだろうか?

 着替えを持ってこられる前に、まずここから出ないと

 私は、バスルームから出ると、廊下に誰もいない事を確かめた
 部屋までの道は、頭に叩き込んである

 早く・・早くしないと、五十嵐先輩が皇兄を呼んでしまう

 早く、ここからいなくならないと

 身体の筋肉は、まだ上手に働いてくれないけれど、ここから逃げ出したいという意志が、私の身体を動かしていた

 迷わずに部屋に着くと、ソファの上のワンピースに急いで着替える

 ここからが、私の知らない所
 玄関がどこかも、まったく分からない

 窓・・
 窓の外から、お庭が見える

 ここは一階。窓からならすぐに外に出られそう
 
 靴・・私が履いていたミュールはどこにも見当たらない

 足は、裸足だったけれど、迷わず窓から外へと飛び出した

 チクチクと草や、石が足の裏を刺激したけれど、戻ろうとは思わなかった

 第一、どんな顔で戻ればいいの・・?

 私は、妹という立場も自分で壊してしまったんだもの

 皇兄を・・兄を好きになって、皇兄に触れたくて

 自分から、皇兄に・・キスを・・した

 こんな私を、皇兄が妹だと見てくれる?

 かと言って、女の子として見てくれるはずもない

 「こぅ・・にぃ・・」

 会いたい。会いたいよう
 
 あなたの傍にいられるなら、どんな雑草に生まれ変わってもいい

 あなたの傍で、私は小さなすみれの花になりたい
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