神様、僕に妹を下さい

Act.318 サイド皇紀(こうき)

 「も・・もう1回聞きたい」
 晶が、ごくんと息を飲んだ

 このセリフ・・オレが曲を弾き終わった時に、晶が言ったのと同じ

 あの時・・オレは・・

 「だめ」
 オレは洞穴のコンクリートを蹴って、晶の後ろに降り立った

 「特別だって言ったろ」
 あの時のオレは、同じ曲を2回も弾く自身がなかったんだ
 だからそう言って、誤魔化して、晶の前から走り去った

 「なん・・何で・・どう・・して・・?」
 晶の肩がワナワナと振るえ、目を見開いてこっちを振り向いた

 晶の大きな瞳、ちゃんと開いている

 「どうして皇兄が、あの男の子と同じセリフを言うの?」

 「はぁ・・はぁ。やっと見つけた」
 額から流れる汗を感じながら、息を整えると、前髪をかき上げた

 晶とこうしてまた、向き合うことが出来るなんて、夢のようだ

 「どうして、皇兄が・・?」
 晶は、未だ戸惑いが隠せない様子で、オレに尋ねた

 そんなの、簡単な事

 「お前の言っている男の子っていうのは、オレだから」

 だから、同じセリフが出てくるんだ

 オレの返事に晶は大きく首を横に振った
 
 「ちが・・う。あの子の髪、茶色だった。私と同じ明るいブラウンだった!」

 髪の・・色か・・
 晶の中では、あの時のオレの印象は髪の色だったか

 確かに、あの頃と今のオレの髪色では180度違うし、茶髪のオレなんて想像出来ないだろうしな

 「髪・・か」
 試しに自分の髪を摘んでみた

 「オレも途中までは、茶色の髪色だったしな。成長するにつれて徐々に黒くなっていったから、お前が勘違いするのも仕方ない」

 オレとお前は、この時からお互い誤解していたのかもしれない

 「う・・そだ」
 晶は首を振り続けた
 そんなに、否定されると少し辛い

 「オレもここに来て、鼻歌を聴くまではすっかり忘れていたよ。お前との大事な思い出のはずなのにな」

 でも、ちゃんと思いだした

 「ギリギリだったが、思い出せてよかった。お前の事はどんな些細な事も忘れたくない」

 晶の体勢が徐々に、後退して行った

 オレが手を伸ばしても、掴めない距離に辿りつくと、晶は背を向け走り出した

 「待て!!晶、もう逃げるな!」

 オレの前から、黙っていなくならないでくれ!!

 オレの叫びに、晶の足が止まる
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