神様、僕に妹を下さい

Act.069 サイド皇紀(こうき)

 ピアノの音は、生徒会室から見下ろす音楽室からだ
 
 演奏者は狩野だろう

 晶は今日も、あいつの演奏を聴きに音楽室に来るのだろうか?

 椅子から立上がると、窓を見下ろす
 ゆっくりとした静かな曲が、心の中に流れ込んでくる

 「ええ曲や」

 「そうですね」

 「ショパンの『別れの曲』やな。失恋した時、よう聞いた曲や」

 「そうですか・・」
 
 別れの曲ねぇ。まさにオレにあつらい向きの曲だ

 晶との別れを示しているのか

 それを聞いたら、やけに切なくなってきた

 「こーちゃんて、ふいに泣きそーな表情するんやな」

 「え?」
 顔には出さない様にしていたが、この人は時々鋭いところがある
 オレは急いで笑顔を作った

 「何言ってるんですか。窓、閉めますよ」

 窓を閉め、ピアノの音を遮断すると、元の席についた
 
 「話がそれましたね。で、何の用ですか?」

 わざわざ昼休みに呼び出したくらいだから、重要な事だろう

 「二つあるんやまず、それ見てみい」
 指を指された方を見ると、さっき投げつけられたファイルだった

 表紙だけ見たところ、今期の予算案のファイルだった
 書記に前の会議の決定案をまとまさせて、後は添削をすれば完了だったはず
 パラパラとめくると、赤字で所々の金額の訂正が入っていた

 「!」
 なんだ・・これは・・
 「どう言うことですか?」

 「生徒指導の鎌田っておるやろ。そいつ今年度から漕艇部の顧問になったんを良いことに、予算の増額をしてきたんや」

 あの、いつも玄関の前で竹刀を振り回している奴か

 「でも、こんなワガママ他の先生方が黙っていないでしょう?」

 「それがなぁ。他の先生も鎌田にビビッてしもて、らちがあかんのや」
 
 これだけ予算を変えらたら、他の予算を組み直さなければならない事になる。また、一からやり直しだ
 
 「それで、会長の意見は?」

 この人の事だ。何か言って来たに違いない
 普段はふざけた人だが、理屈に合わない事には、目上の人に対しても譲らない強さを持っている
 
 「もちろん、NOや。近日中に予算案を算出したデータを提出すると宣言してきたわ。うちの桜庭がやりますってな。脳ミソが筋肉の男には、頭脳で勝負や」

 そして、最後はいつもオレに振って来るんだよな
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