神様、僕に妹を下さい

Act.083 サイド皇紀(こうき)

夢ならどうか・・

 『待ってて。今揚げ出し豆腐を揚げるから』
 晶はニッコリ笑って、オレから離れると油の中に小麦粉をつけた豆腐を入れた

 『だめだ!火傷してしまう』
 焦って蛇口から水を出し、晶の手を水に浸す
 火傷は早く冷やさないと、ジンジン傷みが続いて跡が残ってしまう
 あの時だって、痛がっていただろ

 『火傷なんてしてないよ』
 晶は首をかしげながら、水から手を抜くと掌をかざした

 言われる通り、火傷などましてや包丁で切った傷跡すらなかった
 『ね。大丈夫でしょ。心配性だなぁ。もう』
 困ったように笑い、晶は料理に取り掛かる


 あぁ・・ちがう
 ここにいるのは晶ではない。少なくとも17年間見つづけた晶ではなかった
 あいつが、料理で生傷をつけないはずはない

 この晶は・・夢。オレが創り出した幻想
 晶が好きだ。夢の中でも結ばれるのならこの晶でもいいと思った
 けど・・・欲張りだよなオレ。やはりいつもの晶がいい・・
 同時に二つの事を考えられない不器用さや、一生懸命やりすぎて失敗してしまうところとか、常に目を離せない晶がいい

 『もういい・・ろ』
 『えっ何?皇紀』
 『お前は、オレが知っている晶じゃない。消えろ!』
 オレの叫びと共に晶の姿も、キッチンもすべてが消えた

 
 そして、オレの目の前には身体を丸くして眠っている晶がいた
 両手に火傷と切り傷をつけて眠っている晶が・・

 オレは薄っすらと目を開けた。太陽の光が無造作もなく入り込んでくる


 明け方近くまでオレは晶の掌を氷で冷やしていた
 冷やしすぎて、晶が起きてしまわないように、ゆっくりと時間をかけて
 
 外が明るくなってきた頃には、掌の熱も引いて胸を撫で下ろした
 
 包丁で切った傷は消毒をして絆創膏を、火傷には軟膏を塗ってガーゼを当てた

 「もう、大丈夫だな」
 晶の頭をゆっくり撫でて、手の甲で頬に触れる

 「ありがと」
 晶がこんなオレの為に料理してくれたのが、限りなくうれしかった
 こんな些細な事で、幸せを感じられるんだなと実感した

 晶のこの手を見るまでは・・

 

 「『もう、何もしなくていいから、自分のことだけ考えろ』って晶に伝えて」

 玄関先で母さんに伝言した

 あいつを傷つけるのが、たとえ自分でも許せなかった
< 83 / 350 >

この作品をシェア

pagetop