安西さんは、



「事故の翌日に渡すつもりが、思いも寄らない事態になってしまったので、つい渡しそびれてしまって…」



と、申し訳なさそうに言った。



ロビーで会った、あのときのことだ。



紙袋の中身を確認すると、ボールペンと小さなメモ帳が出てきた。



メモ帳は、雨に濡れてヨレヨレになっていた。



中を開いてみると、雨ににじんで読めない部分も多かったが、たしかに彼の字で、いろいろ書き込んであった。



会議の時間、電話番号と思われる数字、走り書きの連絡事項…。



「…たしかに、彼のものです」



ぼろぼろになったメモ帳を見ていると、事故の日の記憶が生々しくよみがえってくるようで、私は少し、息が苦しくなった。





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