一見、なんでもない日常。



相変わらずリュウくんは、一向に記憶を取り戻す気配を見せてはくれなかった。



冷蔵庫からオレンジジュースのパックを出しながら、ふと、先日の検診で医師に言われたことを思い出す。



『生活に慣れてきたら、なにか”きっかけ”を与えてあげることも効果的ですよ』



医師は、変化のない毎日に落胆する私に、そう言った。



きっかけ、ねぇ。



でも私たちは、今までごく普通の生活をしてきただけ。



リュウくんの記憶に影響を与えられそうな刺激的なことなんて、思いつかない。



グラスにそそがれた鮮やかなオレンジ色が、まるで夏空の太陽のようにまぶしく、私の目に映った。



太陽…。



ああ、楽しかったな、沖縄…。



またあんな日が来るのかな。



せめて、ミオちゃんじゃなくて、ミオって呼んでくれたら…。



「…もしかして」



そういうことが、リュウくんにとって刺激になるなんてこと、あるかな。




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