控え室で鏡台の椅子に座ってぼんやりしていたら、バッグの中の携帯が鳴った。



このメロディは、彼からだ。



「もしもーし」



『あー、ミオ?もう着いた?』



いつもの、低くてやさしい声。



朝から電話でこの声を聞けるなんて、ぜいたくだ。



私の気持ちを落ち着かせ、何も焦ることなどないよ、と教えてくれるようだ。



「うん、もう控え室にいるよ」



『あー俺さぁ、ちょっと遅れそう』



…ええっ!



言った矢先から、焦った。



「やめてよ、こんな日に遅刻なんて!なにやってんの!」



『いや、ちゃんと余裕もって出てきたんだけどさ、渋滞してて。先のほうで事故やってるみたいなんだよ』



「事故?それで、今どのへんなの?」



『大通りにあるコンビニ。お茶飲みたくて』



コンビニ!?



「コンビニ寄るヒマあったら、回り道して来てよ!」



焦りまくる。



『ムリムリ。このへん、一通地獄じゃん。迷うもん。さっきの角で渋滞ってわかってれば、曲がったのになぁ』



どうしてそんなに落ち着いていられるの!



彼の陽気な声を聞いているうちに、一瞬頭がフワァッとして、気が遠くなった。



「…なんでもいいから、早く来てね…」



『りょうかーい。ミオ、先に準備しててね』



言われなくても、するよ…。





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