「お待たせしました」



店員さんの声がした。



でも私は、手で顔をおおったまま、じっとしていた。



カチャッという音がして、ごゆっくりどうぞ、と同じ声が言って、また静かになった。



…―なんだか、無性にむなしくなった。



切なくなった。



彼に会いたい。



彼に会いたい。



何度も、思った。



胸が苦しくなったけれど、不思議と涙は出なかった。









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