あの雨の日、橋から飛び降りようとしたのを助けてくれたのは"君"でした
そこにいたのは……。
『幸希?』
私がそう言うと幸希は勢いよく立ち上がって私の前まで来て言った。
『お帰りなさい、お父様!』
そう笑って言った。
『あ…あぁ、ただいま幸希。お母さんは?』
私は妻の姿が見当たらなかったので幸希に聞いてみた。
すると幸希は少しビクっと肩を震わせてから恐る恐る口にした。
『お母様はお出かけしてます…』
『出かけてるのか?』
『…はい』
私が聞き返すと幸希はコクリと首を縦に頷かせた。
こんな時間に幸希を一人にしてるのか?
『今日はお父様はもうどご行かない?』
そう幸希が聞いてきた。
だが私には仕事があった。
必要な書類だけ取りに来ただけだった。
私は幸希の頭をポンっと優しく置いて撫でた。
『私はまた会社に戻らなければならないんだ。まだやることがあるからな。一人で留守番できるか?』
私がそう聞くと幸希はシュンとしていた。
あきらかに寂しそうだな。
でもただ買い物とかで出かけてるだけならすぐに帰ってくるだろう。
私はそう思っていた。
だがそれは間違いだったと……その時の私は気づけなかったのだ。
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