全てを恨んで死んだ悪役令嬢は、巻き戻ったようなので今度は助けてくれた執事を幸せにするために生きることにします
「いいってば。だって私、すっきりしたもの」

 サイラスに抱え上げられ、私が去って行くのを見たカミリアのあの表情。思い出すと笑いが込み上げてくる。

 後ろで見ているジャレッド王子なんて、口を開いて何とも間抜けな顔をしていた。

 なんだ。逃げてしまってもよかったのか。

 今回の人生ではやりたい放題やっているつもりだったけれど、頭のどこかには公爵令嬢としての義務感が残っていたらしい。


「しばらく戻れないわね。下手に動くと誰かに見つかっちゃう」

「そうですね。すみません……」

「もう、何回謝るのよ。そうだ、せっかくだからこのまま人通りのない道を選んで遠くまで行ってしまわない? 覚えてる? ずっと前にも同じようなことあったわよね」

 そう言ってサイラスの手を引っ張る。

 確かあれは私が九歳で、サイラスが十歳の時のことだ。まだジャレッド王子の婚約者になっていなかった私は、祭典の日も自由に動くことができた。

 当時はサイラスが私の専属執事になったばかりだった。

 祭典の日、一日中サイラスを連れ回してお祭りを満喫していた私は、夜になって終わりが近づいてもまだ帰りたくなかった。

 一緒に来ていた使用人たちは、まだ残りたいと言っても困り顔で首を振るだけ。

 それでサイラスの腕にしがみついて、一緒に逃げてと駄々をこねたのだ。

 サイラスはずっといけませんよ、お屋敷に帰って遊びましょう、と私をなだめていたけれど、私が泣きそうになって顔を歪めると目を見開いた。

 そうして何かを決意したように私の背中に手を回すと、そっと抱き上げたのだ。

「では、もう少しだけ遊んで帰りましょうか」

 サイラスが上から私を見下ろしていたずらっぽく笑うので、私はすっかりはしゃいでしまった。

 サイラスは後ろで大人たちが止めるのも聞かずに走り出す。
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