全てを恨んで死んだ悪役令嬢は、巻き戻ったようなので今度は助けてくれた執事を幸せにするために生きることにします
「それでは気晴らしに街に出かけてみませんか? お嬢様、ドレスやアクセサリーを見るのがお好きでしょう。お嬢様の好きそうなお店をたくさん調べておいたんです」

「……ドレスやアクセサリーなんて買ったって、着飾った姿を見て欲しい人とはもう会えないもの。意味ないわ」

 お嬢様は表情を変えないままそう言う。この提案もだめだったようで、私は目を伏せた。

「……あの、お嬢様」

 声をかけると、お嬢様はまだ何かあるのかとでも言いたげな目でこちらを見た。気づかないふりで言葉を続ける。

「あまり気を落とさないでくださいね。あの方よりもお嬢様にふさわしい男性なんていくらでもいますから。きっとすぐに、あの方と遜色ない立場の方との縁談だって決まりますよ」

 心からの思いでそう言った。

 あんな不誠実な王子よりも、もっとお嬢様にふさわしい方はいくらでもいる。アメル公爵家の娘で、こんなに美しいお嬢様なのだ。

 今は元気をなくしてしまっているが、気力さえ取り戻せばいくらでもいい縁談が飛び込んでくるに違いない。

「……こんな悪評の立った女をもらってくれるような奇特な人、いるかしら」

 しかし、私の言葉にお嬢様は乾いた笑みを浮かべる。

「悪評なんて……」

「それに私、ジャレッド様の立場が好きだったわけじゃないわ。あの方だから好きだったの」

「……すみません。失言でした」

 言葉選びを間違えたことに気づき謝罪する。

 代わりの人が現れればいいという問題ではないことくらい、わかっていたではないか。

「大丈夫よ。そういう意味で言ったわけじゃないのはわかってるわ」

 お嬢様はこちらに向かって小さく微笑んだ。悲しげな、無理をしているような笑顔だった。
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