全てを恨んで死んだ悪役令嬢は、巻き戻ったようなので今度は助けてくれた執事を幸せにするために生きることにします
「殿下、おやめください。エヴェリーナ様はそのようなことをする方ではありません」

 サイラスが王子の方に歩み出て言う。

「なんだお前は。……ん? お前、エヴェリーナの家の執事じゃないか。祭典のときにお前が舞台を邪魔したのをよく覚えているぞ」

 ジャレッド王子はサイラスをじろじろ眺めると、ふいににやりと口を歪ませた。

「噂に聞いているぞ、エヴェリーナ。お前私に婚約破棄されたのがショックで、その執事を囲い込んでいるそうじゃないか。公爵令嬢が使用人にすがって寂しさを紛らわせるなど、哀れなことだ」

「ジャレッド様、そんなことを言ってはかわいそうですわ」

 ジャレッド王子は馬鹿にしたように言い、カミリアが笑いをこらえたような顔で窘める。

 部屋の中には、不愉快な二人の笑い声だけが響いていた。

「殿下、エヴェリーナ様は……!」

「なぁ、エヴェリーナ」

 近づくサイラスを無視して、ジャレッド王子はこちらに顔を向ける。

「こんな平民上がりの男でも相手にしてもらって楽しいのか? 身分も金もないつまらない男だろう。罪を認めて這いつくばって謝罪するなら、俺の妾にくらいはしてやってもいいぞ」

 言われた瞬間頭に血が上り、私は気がついたらジャレッド王子の頬を思いきり引っぱたいていた。

 パシンと乾いた音が響いた後、部屋は静寂に包まれる。

 カミリアも、サイラスも、会場の人たちも、誰もが目を丸くして私とジャレッド王子を見ていた。


「何をする!!」

「……殿下があんまり馬鹿なことをおっしゃるので」

「馬鹿なこととはなんだ! 本当のことを言っただけだろう!?」

 私は喚いているジャレッド王子を横目で見ながら、びっくりした顔でこちらを見ているサイラスの腕をつかむ。
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