全てを恨んで死んだ悪役令嬢は、巻き戻ったようなので今度は助けてくれた執事を幸せにするために生きることにします
……しかし、おかしい。
先ほど王子が私を捕らえるよう命じたと言うのに、一向に兵士たちが近づいてくる気配がない。
会場はただただ静寂に包まれている。威勢よく命令したジャレッド王子の顔に困惑の色が浮かぶのがわかった。
「お前たち、何をしている。エヴェリーナを捕らえろと言っただろう。さっさと捕まえろ」
「いや、しかし……」
「エヴェリーナ様は……」
王子は再び命令するも、兵士たちは顔を見合わせて困り顔をするだけだ。兵士の一人がねぇ? とでも言いたげな顔でこちらを見てきた。そんな顔をされても困る。
「兄上、少しよろしいでしょうか」
突然、会場の奥からよく通る声が聞こえた。その人は人々が空けた道を通り、こちらに向かって歩いてくる。
「何の用だ、ミリウス」
ジャレッド王子は突然現れたミリウスを睨みつけた。一体いつの間に会場に来ていたんだろうと、ミリウスの顔を眺める。
「兄上、エヴェリーナ嬢を王族に危害を加えた罪で捕らえるのは不当です。先にあなたが彼女とその執事を侮辱したのではないですか」
「な……! 私は本当のことを言ったまでだ。大体、その女はカミリアを暗殺しようとしたのだぞ!」
「それだって彼女の言う通り証拠がないでしょう」
ミリウスは、ジャレッド王子を真っ直ぐに見つめながら言う。
私はすっかり驚いてしまった。顔を合わせれば文句ばかり言ってくるから当然嫌われているとばかり思っていたのに、一体どういう風の吹き回しだろう。
黙って話を聞いていたカミリアは、ミリウスを涙で潤んだ目で見上げると、悲しげに言った。