全てを恨んで死んだ悪役令嬢は、巻き戻ったようなので今度は助けてくれた執事を幸せにするために生きることにします

「サイラス!!」

 足がもつれそうになるのにも構わず駆け足で近づいて、思いきり彼の胸に飛び込んだ。

「お、お嬢様? 急に何を……」

「ああ、サイラス。サイラス。会いたかった」

 動揺するサイラスに構わず、ぎゅうぎゅう力を込めて抱きしめる。サイラスの声。なんて懐かしいんだろう。目頭が熱くなってくる。


「お嬢様、一体どうしたんですか。私などに抱きついてはいけませんよ」

「いいじゃない。すっごく久しぶりなんですもの」

「久しぶり……? 今朝だってお屋敷で顔を合わせたではないですか」

 抱きついたまま見上げると、サイラスは困り顔をしている。私は何も言わず頬を緩めて彼を見つめた。

「エヴェリーナお嬢様、婚約破棄されたのがそこまで混乱なさるほどショックだったのですね。ジャレッド王子、無実のお嬢様に言いがかりをつけて公衆の面前で婚約破棄するなど、とても許せません……!」

 サイラスは唇を噛みしめて悔しそうに言った。私は笑顔で首を横に振る。

「いいえ。婚約破棄のことなんて全然気にしてないの。私、もう間違わないわ」

「しかし……」

「せっかくやり直すチャンスをもらったんだから、婚約者に捨てられたことも、冤罪をふっかけられたことも何も気にしないことにする。私、今度の人生ではあなたに恩返しするために生きるから!」

「えええ……?」

 サイラスは目をぱちくりして呆然としている。私はそんな彼の表情を見られることすら嬉しくて、ただにこにこ笑っていた。
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