全てを恨んで死んだ悪役令嬢は、巻き戻ったようなので今度は助けてくれた執事を幸せにするために生きることにします
 牢屋から出た私は、衰弱から回復するまで数ヶ月ベッドの上で過ごした。

 起き上がれるようになりやっと、解放された理由がわかった。

 執事のサイラスが、血のついたナイフを持って自分がやったと自首してきたと言うのだ。調査の結果、ナイフの血はカミリアのものだと判断された。


 サイラスは私より一つだけ年上の執事で、子供の頃からずっと公爵家で働いてくれていた人だ。

 とある商家の次男で、子供のうちから公爵家に仕えて忠実な使用人になれる者を探していたお父様が、その利発さを気に入って連れて来たらしい。

 お父様はサイラスの働きぶりを見てさらに気に入り、私の専属執事にした。なので、私は子供の頃からいつも彼に世話を焼かれながら過ごしてきた。


 でも、だからって、なぜ。

 専属執事だからといって、主人の娘の罪をかばってやる義理はないはずだ。

 お父様が命じたのだろうか? いや、そんなはずはない。お父様はカミリア暗殺を命じたのが私だと知るなり、私をあっさり切り捨てたような人だ。今さら身代わりを用意するはずがない。

 それならどうしてサイラスは私をかばうような真似を。
 
 ぼんやりする頭を必死に働かせる。

 記憶を辿ると、サイラスだけはじょじょに居場所をなくしていく私にずっと優しかったことを思い出した。彼だけは風向きがどう変わろうとも、決して私を見捨てることがなかった。

 ショックで部屋に閉じこもる私に、サイラスは何度も私の好きな焼き菓子を持って訪ねてきてくれた。

 王子に婚約破棄されて早々に私を切り捨てたお父様やお母様にも、煙たがられるのも構わず何度もお嬢様は何もやっていないと主張してくれた。

 牢屋に入れられている時期だって、ちゃんと面会に来てくれたのはサイラスだけだったのだ。

 なのに、私は全く気に留めなかった。
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