全てを恨んで死んだ悪役令嬢は、巻き戻ったようなので今度は助けてくれた執事を幸せにするために生きることにします
「では、もう一度摘みに行って今度は押し花にしましょうか」

「押し花?」

「押し花知りませんか? 花を紙で挟んで上に重しを置くと、水気が抜けて長く保存できるんですよ」

 そう言うとお嬢様は悲しげな顔から一転して、「素敵!」と目を輝かせた。

 お嬢様は専門の家庭教師をつけられて高い教育を受けているけれど(授業から逃げ出して遊んでいることも多いとはいえ)、庶民なら誰でも知っているような一般知識はあまり知らない。

 お嬢様がこんな風に私の言った言葉を興味深々で聞いてくれるときは、とても嬉しくなった。

 お嬢様に急かされ、早速新しい花を摘みに向かった。お屋敷に戻り、分厚い本の間に紙で包んだ花を挟む。

 数日後、押し花が完成したので、紐をつけてしおりにすると、お嬢様はとても嬉しそうにそれを眺めていた。

「可愛い! 今度こそ大事にするわ」

 お嬢様はしおりを抱きしめるように持ちながら、部屋の奥に駆けて行く。そこからこちらを見て手招きした。


 近づくと、お嬢様の目の前の壁には小さな金庫のようなものが埋め込まれていた。

 当時の私はまだお嬢様の専属執事ではなかったので、お嬢様の部屋に入る機会はそう多くなく、そのようなものがあるのは初めて知った。

「サイラス、見ててね」

 お嬢様はそう言うと、金庫の番号を押していく。五つ目の数字を押したところで扉が開いた。

「すごいでしょ! これ、アメル公爵家に代々伝わる金庫なの。すごく頑丈で番号がなければ絶対に開かないのよ。アメル家の人間は、一人ひとつこの金庫を持ってるの」

「あの、お嬢様……? 私に番号を入れるところを見せてもよかったのですか?」

 アメル家に代々伝わる金庫の番号なんて、簡単に見ていいものではないことだけはわかる。

 たった今覚えてしまった数字を慌てて頭から追い出そうするが、その番号というのがお嬢様の誕生日に一つ数字を足しただけの数なので、忘れるのは難しかった。

 焦る私とは裏腹に、お嬢様は満面の笑みでこちらを見ている。

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