全てを恨んで死んだ悪役令嬢は、巻き戻ったようなので今度は助けてくれた執事を幸せにするために生きることにします

 ジャレッド王子は、最近聖女として王宮に招かれたカミリアという少女をいたく気にかけていた。

 どこへ行くにも王子自らカミリアのそばについて案内し、パーティーではカミリアを隣に置いて、周りの者たちに彼女のすばらしさを熱を込めて語る。

 事情を知らない者が見れば、王子の婚約者はあの聖女なのだと誤解されてもおかしくない有様だった。

 そんな二人を見るたび、お嬢様はいつも耐えるように口を引き結んでいた。

 何もできない自分が悔しかった。

 お嬢様の婚約者が、お嬢様を一番に考えてくれる人であったらよかったのに。お嬢様は愛されて大切にされ、幸せになるべき人のはずだ。

 しかし、お嬢様はジャレッド王子にいくら適当に扱われても、決して彼を見限ろうとしない。

「私はジャレッド様の婚約者なんだから」

 ジャレッド王子とカミリアが仲睦まじく過ごす様子を見たとき、決まってお嬢様はそう呟いていた。泣きそうな顔で、必死に自分を抑え込むように。

「お嬢様、お疲れでしょう。今日は街に寄ってお嬢様の好きなケーキでも買って帰りませんか?」

 少しでも元気づけたくて、うつむいているお嬢様にそう声をかける。

「いえ、遠慮しておくわ。街に寄っている時間があったら勉強を進めたいもの」

 お嬢様は淡々とそう言った。その顔からは先ほどまでの弱々しさが一切消えている。

 お嬢様が必要としているのは私の励ましなどではなく、ジャレッド王子からの関心なのだと、改めて思い知らされる。

 ただの使用人である私が彼女にできることなんて何もないのだ。
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