全てを恨んで死んだ悪役令嬢は、巻き戻ったようなので今度は助けてくれた執事を幸せにするために生きることにします
 しかしジャレッド王子を健気に愛していたお嬢様に対し、彼が行った仕打ちは残酷だった。

 大勢の貴族たちが集まるパーティーの中、お嬢様が聖女カミリアをいじめたと糾弾し、婚約破棄を突きつけたのだ。

 そのとき私は王宮内にはいたものの会場に入らず、別室で他の使用人たちとお嬢様の私物の片付けなどをしながら待機していた。

 そこに興奮気味で入って来た侍女が、ジャレッド王子がエヴェリーナ様に婚約破棄を突きつけ、新たにカミリアと婚約を結んだと告げた。

 頭が真っ白になる気がした。

 あれだけお嬢様は王太子の婚約者として努力していたのに。
 
 やりたいことも欲しい物も全て我慢して、ただジャレッド王子のために耐えていたのに。それに対する返事がこれなのだろうか。

 いてもたってもいられず部屋を飛び出した。早くお嬢様を探さなければならない。

 泣いてはいないだろうか。絶望にかられてはいないだろうか。

 すっかり気持ちを隠すのが得意になった彼女は、感情を抑えて押しつぶされそうになっているかもしれない。気が気ではない思いで城の中を走る。


 すると、前方からお嬢様が駆けてくるのが見えた。

 ああ、きっとパーティー会場にいるのがいたたまれなくなり、飛び出してきたのだろう。よろけそうになりながら、一心不乱に走っている。思わずお嬢様、と呼びかける。

「サイラス!!」

 お嬢様はそう言ったかと思うと、勢いよく私に抱きついた。
 突然のことに思考が停止する。

「お、お嬢様? 急に何を……」

「ああ、サイラス。サイラス。会いたかった」

 お嬢様は私をぎゅっと抱きしめて離そうとしない。

 こんなに密着されるのは幼い頃以来で、こんな時なのに動揺してしまう。

 子供の頃ならともかく、淑女らしさを身に着けた彼女が使用人の男に気安く抱きつくはずがない。お嬢様はそこまで混乱するほどショックを受けているのだろうか。

 しかし、お嬢様はとても晴れやかな顔をしていた。

 そして真っ直ぐな目でこちらを見つめ、私に「恩返し」をすると告げたのだ。
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