冷酷な軍人は没落令嬢をこよなく愛す
香世はいつものように正臣のシャツのボタンを止める。
手首のボタンを止める時ふと手を止めてしまう。
手のひらに傷…不自然じゃ無く見る方法なんてあるのかしら?

「どうした?」
動きを止めた香世を不思議に思ったのか、
正臣が顔を覗き込んでくる。

「あ、いえ、なんでも無いです…。」
急いで取り繕って微笑む。

「香世、顔色が悪いな。
少し真子との勉強は休んで横になっていた方がいいんじゃないか?」

「大丈夫です。ちょっと寝不足なだけです。
真子ちゃんが来てくれると元気を貰えるので、会えないのは寂しいです。」

「そうか…。」
日がな一日、1人で置いておくのも酷だしな…
どうしたものかと正臣は考え込む。

先に寝ていいと言っても、
きっと昨夜のように待っているだろうし、
出来れば香世と話す時間が欲しいと思ってしまう自分がいる。

頭を撫ぜて、
「あまり無理はしてくれるな。」

正臣は、香世の透き通るほど白い頬に触れようと手を伸ばすが寸での所で止める。

触れてはいけない、怖がらせるだけだ。

正臣は自分を制し、
軍服を羽織りボタンを閉め装飾品を取り付ける。

階級が上がる事に増えて行くバッチが重さを増す。

腰ベルトに短剣と小銃、警棒を取り付ける。

「ありがとう。」
と、香世にお礼を言う。

軍帽を香世が差し出して来るから頭を下げてみる。

「えっ⁉︎」
香世は戸惑い、どうするべきかと首を傾げる。
その仕草を可愛いな、と思いながら目で合図をする。
伝わったのか恐る恐る頭に軍帽を被らせてくる。

正臣は満足してにこりと笑い
「ありがとう。」
と、お礼を言って部屋を出て行く。
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