冷酷な軍人は没落令嬢をこよなく愛す

香世は鞄を持ちいそいそと正臣の後をついて玄関へ向かう。

玄関には前田が待っていて、爽やかに笑いながら
「おはようございます。」
と、頭を下げてくる。

「香世様、おはようございます。
どうですか?ここの暮らしには慣れて来ましたか?」

香世は気さくな感じに話しかけられて、
若干びっくりして瞬きをする。

「あ、はい…。だいぶ慣れて来ました。」

前田とはまだ挨拶程度しか交わした事が無かった筈…

人懐っこい人なのね。
と、1人納得して香世は微笑み返す。

「可愛らしい方だ。
何か困った事とか、心配事があったら僕に言って下さいね。
二階堂中尉よりは自由に動けますから。」

「ありがとうございます。」
香世は素直に頭を下げる。

正臣はブーツを履きながら、
若干面白くない顔をして前田を睨み付ける。

「カステラどうでしたか?
結構並んでギリギリ買えたんですよ。」

「あっ、前田さんが買ってくださったんですね。とても甘くてしっとりしていて、
美味しかったです。ありがとうございます。」

果穂の笑顔で前田が満足したらしく、
にこりと笑って正臣の鞄を香世から受け取る。

「前田、勝手に香世に話しかけるな。」
正臣が前田を咎め、 
シッシと手のひらを振って追い払う。

「では、行って来る。」

「はい。お気を付けて行ってらっしゃいませ。」

2人の女中と共に頭を下げる。

正臣は昨日と同じように、香世の頭を優しく撫ぜて出かけて行った。
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