冷酷な軍人は没落令嬢をこよなく愛す
「前田、香世に慣れならしく喋りかけるな。」
正臣が車に乗り込むなり前田を咎める。

「ボスに怒られるのは想定内です。
でも、こうでもしなきゃ香世様と仲良くなれないでしょ?」

「仲良くならなくていい。」

前田と言う男、怖い者知れずで正臣にもたじろがず、ずけずけと物を申す。

こう言う奴は最近いないから貴重な存在だが、だからと言って香世に馴れ馴れしいのは正直腹が立つと、正臣は思う。

「今日も何か手土産を用意しといてくれ。」
腹立たしいが、こう言う事を気軽に頼めるのは前田しかいないから仕方がない。

「了解しました。
今日は何が良いですかねぇ。
ああ、最近人気の喫茶店でプディングが人気らしいんですけど、食べた事ありますか?」

「ない。」

普段、正臣は甘い物を好き好んで食べる方では無く、昨日のカステラも実は始めて食べた。

香世が嬉しそうだったなと、
思い返しても思わず笑みが溢れてしまう。

「ボスがそうやって笑うのは珍しいですね。」
前田がニヤニヤ笑って茶々を入れる。

「お前は、前だけ見てろ。」

今夜は早く帰れるだろうか…。
香世の体調も気になるから願わくば早く帰りたい。
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